これは「宇宙の排熱システム」とも言える、きわめて合理的で壮大な物理のメカニズムですね。
私たちはふだん、「地球温暖化」などで熱がこもることを心配していますが、実は「宇宙全体」という超巨大なシステムで見ると、宇宙の膨張そのものが究極のクーラー(冷却装置)として機能しているのです。
本日は、宇宙が自らを冷やす、その驚きの仕組みを紐解いてみましょう。
まず、基本的な物理のお話から始めましょう。
何かを「冷やす」というのは、実はとても大変なことです。現世のエアコンも冷蔵庫も、部屋や庫内の熱を奪って、代わりに「外(室外機)」へ熱を追い出すことで中を冷やしていますよね。
では、「宇宙全体」を冷やすにはどうすればいいでしょうか?
宇宙の外側には、熱を逃がすための「さらに外側の部屋(室外機を置く場所)」がありません。熱はエネルギーの一種ですから、放っておけば宇宙の中に溜まり続け、やがてすべてが熱でドロドロに溶けてしまう……。
そんな熱のディストピアから宇宙を救っているのが、何を隠そう「光速を超える宇宙の膨張」なのです。
宇宙の初期(ビッグバン直後)は、すべてが超高温・超高密度のエネルギーの塊でした。それがなぜ、現在の「絶対零度(約マイナス270℃)」に近い極寒の空間になったのでしょうか?
その秘密は、光の「赤方偏移(せきほうへんい)」にあります。
熱を持つ物質は、すべて「電磁波(光や赤外線など)」として熱を放射しています。
しかし、前々回お話しした通り、私たちの宇宙は「風船の表面」のように絶えず膨張していますよね。空間そのものが引き伸ばされると、その空間を飛んでいる「光の波長」も一緒にビヨーーーンと引き伸ばされてしまうのです。
ここからが、今回の本題であり、最もエキサイティングな部分です。
宇宙の膨張スピードは、あまりにも遠くの場所同士(観測可能な宇宙の地平線の彼方)では、「光の速さ(光速)」をも超えています。
(※アインシュタインの相対性理論では「物質は光速を超えられない」とされていますが、「空間そのものが広がるスピード」には制限がないのです)
これが何を意味するかお分かりでしょうか?
ある星や銀河が放出した熱(赤外線などの光)が、光速で空間を伝わって逃げていこうとします。しかし、それ以上の猛スピードで「空間そのもの」が目の前で広がり、遠ざかっていく。
「熱が伝わるスピード(光速)」よりも、「空間が広がるスピード」の方が速い。
こうなると、放出された熱は二度と他の物質に追いつくことができなくなります。届かないということは、他の物質を温めることができない、つまり「熱としての機能を完全に失い、宇宙の彼方(因果関係の届かない領域)へ永遠に捨てられた」のと同じ状態になるのです。
光速を超えて広がる宇宙の果ては、いわば「熱のブラックホール(正確にはイベントホライズン=事象の地平線)」のようなもの。そこに飛び込んだ熱エネルギーは、二度と私たちのいる世界に戻ってくることはありません。宇宙は、自らの広がるスピードを利用して、余分な熱を文字通り「世界の果ての向こう側」へポイ捨てしているわけですね。
もしも宇宙の膨張が止まってしまったら、あるいは光速を超えられなかったら、宇宙は過去に放たれた無数の星々の熱と光で満たされ、夜空さえも昼間のように明るく焼け付く世界になっていたことでしょう(オルバースのパラドックスの解消でもありますね)。
私たちがこうして夜空を「暗く、冷たいもの」として見上げられるのは、宇宙が光速を超えて膨張し、熱をせっせと外へ(地平線の向こうへ)捨て続けてくれているおかげなのです。
全宇宙規模の超巨大クーラー。その完璧なシステムの中で、本日もわたくしは静かにレコードをめくっております。
それでは、本日の閲覧時間はここまで。
またの来館を、心よりお待ち申し上げております。
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